「はやぶさ2」プロジェクトの情熱に触れる
関係者特別インタビュー!!

応援人編3

有限会社オービタルエンジニアリング 取締役社長
次世代宇宙システム技術研究組合 理事長
山口 耕司 氏

日本の宇宙開発を支える技術者が語る
宇宙へのロマンと「はやぶさ2」への期待

JAXAや大手企業からの依頼を受け、宇宙関連の機器を数多く手がけるオービタルエンジニアリング。そこで代表を務めながらも、自ら現場を駆けまわる山口氏に、宇宙開発とそれを支える技術の現在を聞いた。

――オービタルエンジニアリングの設立の経緯を教えてください。

うちの会社は宇宙用の機器の設計や解析、計算の仕事をしていて、今年でちょうど20年を迎えます。
私自身はもともとメーカーにいて、よくロッキード(※ 1 )やGE(※ 2 )と仕事をしていました。当時すでにアメリカでは宇宙の産業化が進んでいて、大企業を頂点に、システム、部品、加工、材料と、中小の製造メーカーが並ぶという、産業構造の三角形のピラミッドができていました。そういったアメリカの状況を見て、いずれ日本もそうなるのではないかという予測がありました。また、同じ頃、コンピューターの性能も向上し、設計のツールが個人で買えたり使えるようになったこともあり、独立して今の会社を設立しました。

――設立から現在までご苦労はありましたか?

苦労は今も大いにあります。
まず前提として、日本ではアメリカほど宇宙産業が大きく育っていないので、ピラミッド型になっていません。国とJAXAの下に大企業が並んでいて、少しずつ増えてきてはいますが、ピラミッドの下側の中小企業が多くありません。そういう意味では開拓の余地は大いにあると思います。
しかし一方で、産業のしくみ上、製造現場の苦しさもあります。そもそも日本では、宇宙を産業化していく方針である「宇宙基本計画」が定められたのが、ほんの10 年前。私が会社を設立したのはそれよりもはるか昔、今から20 年前でしたから、苦労するのも当然かもしれませんが(笑)。

――事業としては具体的にどういったことをされているのでしょう?

設立当初はおもに設計の仕事をしていましたが、徐々にハードウェアをつくる仕事を始めました。現在は、宇宙ステーションに搭載されている機器や、いろんな衛星に積まれているカメラやコンポーネントなどの設計、開発から製造、組立や、断 熱材をはじめとした材料の製造のほか、検査や試験までしています。
JAXAさんとの仕事でいえば、「IKAROS」をはじめ、様々な人工衛星に関わってきました。「はやぶさ2 」でも一部の機器の製造をお手伝いしています。また、「はやぶさ」に使われている断熱材のように、宇部興産などの大手企業から引き継いでやっている仕事もあります。
「宇宙の仕事」というと一見華やかに思えますが、工数や人手がかかる泥臭い仕事が多く、パートのおばちゃんの手作業に頼ることもありますよ。

――超小型衛星も手がけていらっしゃいますね?

「ほどよしプロジェクト」(※ 3 )ですね。このプロジェクトは、私が代表理事を務めている「次世代宇宙システム技術組合」でやっています。これまでNASA やJAXAなどでは、大規模なプロジェクト、大きな人工衛星をつくることが主流になっていましたが、「ほどよしプロジェクト」では、1 基あたりの価格をそれらの約100 分の1 程度に抑えた、安価で短い期間でできる超小型衛星をつくっています。超小型衛星は大型衛星のように多くの機能を盛り込むことはできませんが、価格を抑えることで宇宙利用のハードルが下がり、より多くの地点のリアルタイムな状況を把握しやすくなるなど、今までできなかったことにも取り組めるようになりました。
また、通常の「産官学連携」のプロジェクトではうまくいかないことが多いので、このプロジェクトでの超小型衛星の開発・製作にあたっては、ジョイントベンチャーのように、チームとしてはひとつでありながら、組織や管理、お金も分けるというやり方にしました。その際に立ち上げたのが、「次世代宇宙システム技術組合」です。この組合のメンバーは、ひとつのプロジェクトを終えたら抜けることもできますし、新しいプロジェクトの立ち上げ時に入ることもできる。今も、宇宙関連のパーツの仕事や、IoTのシステムづくりを手がけています。

他の企業とのつながりとしては、「神奈川異業種グループ連絡会議」が主体となって立ち上げた、全国の中小企業が参加するコンソーシアム「まんてんプロジェクト」にも参加しています。このコンソーシアムは、航空宇宙関連の部品を開発・製造するための共同事業体で、つねに100 社ぐらいのメンバー企業がいます。うちの会社で一緒にものづくりができるパートナーとなる会社を見つけられたのも、このコンソーシアムがあったからだと思います。

――自社でものづくりをするためのネットワークが組合やコンソーシアムにあるんですね?

そうですね。依頼内容によっては、組み立てや貼り付けまでやったりしますが、こうしたネットワークを使ってお願いすることも多いです。ものづくりをしている中小企業を「町工場」とひとくくりにしてしまうと同じように見えますが、100社あれば100社違って、同じ設備があっても得意なことは違います。ですから、得意な部分は自分のところでやって、頼んだほうがいいところは頼むというやり方をしています。
「次世代宇宙システム技術組合」も「まんてんプロジェクト」も、足りない部分はみんなで補いましょうという考え方で、いろんな会社さんとのネットワークが、うちの財産だと思っています。
たとえば最近では、漁網や野球の防球ネットなどをつくっている企業に、宇宙用のネットも依頼しています。「はやぶさ」の断熱材にも薄いネットが挟み込まれているのですが、もともとそのネットもこうした中小企業に頼んでつくってもらったものなんですよ。

――やはり「宇宙」にロマンを感じられますか?

うちの会社の技術力をもってすれば、他の商売をやったほうが儲かるかもしれませんが「惑星探査」をはじめとした「宇宙科学」は、いまだ多くが未知の世界ですし、ロマンがあります。ものをつくってもうまくいかないこともありますが、エンジニアとしては、みんながやったことがないことや、世界で唯一のものにも挑戦できますし、そこに技術を提供できることはエキサイティングで楽しいことですよね。

――山口さんにとって、「はやぶさ2」はどのような存在ですか?

未知のところへ行って、そして帰ってくる。それを可能にする技術とそれを実現するものづくりの難しさとすばらしさ。宇宙開発に携わる者にとって、はやぶさは、日本のものづくりの象徴であると思っています。1枚の写真だけでも非常に価値のあるミッションですので、大変楽しみにしています。

用語解説
※1
ロッキード:アメリカ合衆国の航空機メーカーで主に軍用機を製造していた。マーティン・マリエッタ社と合併 し、現在はロッキード・マーティン社となっている。
※2
GE:ゼネラル・エレクトリック社のこと。アメリカ合衆国コネチカット州に本社を置く企業で、航空機エンジンをはじめとした航空宇宙産業のほか、医療機器、産業用ソフトウェア、発電・送電機器、鉄道機器、水処理機器などなど、その事業は多岐にわたる。
※3
ほどよしプロジェクト:東京大学大学院の中須賀教授を中心として、様々な教育・研究・企業組織と連携して進められている研究開発活動のこと。「すべてにおいて完璧をめざすのではなく、ほどほどでいいのではないか」という「ほどよし信頼性工学」を導入し、超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの構築をめざす。内閣府の支援を受け、2010年より研究が開始された。2018年5月時点で「ほどよし1号」から「4号」までの4基の衛星が打ち上げられ、運用されている。
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