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大倉崇裕氏【特別インタビュー】“人生を変えた!?”特捜最前線
2025/01/21

ドラマ化もされた『福家警部補』『警視庁いきもの係』シリーズなどで知られ、『名探偵コナン』劇場版の脚本を手掛ける推理作家・大倉崇裕さんは、中学生時代からという“筋金入りの特捜ファン”!! 今回は『特捜最前線』の魅力を、2回にわたって語っていただきました。前編は、『特捜最前線』との出会い、他のドラマにない魅力などについて。

映像のプロが語る「特捜最前線」の魅力とは【特別インタビュー1】

テレビ禁止の少年時代、親の外出中にチャンネルを合わせると・・・

初めて『特捜最前線』を観たのは、中学生の時。私が住んでいた京都でやっていた再放送でした。記憶がちょっと曖昧ですが、午後3時からの再放送だったと思います。

母親が厳しかったもので、テレビはほとんど見せてもらえなかったんです。見られるのは、母が外出することが多かった午後の数時間だけ。そんなある日、学校から帰って、すぐさまテレビをつけた時、たまたまやっていたのが、『特捜最前線』。しかも「津上刑事の遺言!」(351話)だったんです。それがとんでもなく面白かったので、それからは毎日のように『特捜最前線』を観るようになりました。

なんの情報もなく、知識もないままにずーっと観ていましたね。
その後、大学入学で東京へ出てきたので再放送は観られなくなりましたが、リアルタイムで本放送を観るようになった感じです。

私にとって『特捜最前線』は、ミステリーとしても、刑事ドラマとしても、初めての体験でした。あの時、たまたまテレビをつけなかったら……、あの時にやっていたのが「津上刑事の遺言!」でなかったら……「私の人生は変わっていたかもしれない」……と本当に思いますね。

20年以上前、ブログで書いていた『特捜』傑作レビュー

2001年に最初の単行本『三人目の幽霊』を上梓しました。インターネットのブログの走りみたいな時代、あの頃、今の5倍ぐらい“狂ったように”テレビを観ていたんです。ちょうどスカパーに加入したというのもあって、とにかく観まくっていました。そうすると、いつ何を観たかがわからなくなってしまうので、最初は自分用のメモとして、タイトルと脚本、監督、あらすじ、簡単な感想などを書き始めた感じです。
当時、スカパーの「ファミリー劇場」という枠で『特捜最前線』をやっていたので、それに合わせて書いていました。高尚な目的はまったくなくて、備忘録のように書き散らしていたので、誤字脱字もいっぱいあってお恥ずかしいですけどね。

映像のプロが語る「特捜最前線」の魅力とは【特別インタビュー1】02

これは偉業です。デアゴさん!よくぞやってくれました(笑)!

自分が生きている間に、『特捜最前線』の全話が観られるようになるなんて、思ってもいませんでした。諦めていたんです。それが実現したんですから、“偉業”としかいいようがありません。一ファンとして、感謝しかないですね。
『特捜最前線』って、有名なタイトルであるわりには、ビデオ化や再放送という面で恵まれてきませんでした。DVDは何とか頑張ってセレクションが出ましたけど、全話を観られる機会はさっきお話しした「ファミリー劇場」以降、この20数年間一度もなかった。そんなわけで、『特捜最前線』の全貌をちゃんと掴んでいる人って、実はそんなに多くないと思うんです。全話揃っていれば、全作を俯瞰した論証もできますが、『特捜最前線』はみんなの記憶から零れ落ちたものがいくつもあるので、それが難しい。私自身、全作をきっちり覚えているわけではなく、本放送の時にリアルタイムで1回しか観ていない作品がたくさんあります。それが今回、最終号まで7年以上かかるとしても(笑)全話が揃うわけですから、デアゴさんには「よくぞやってくれました」(笑)といいたいですね。

できなかったことをやってやろう!ボーンと突き抜けた特捜イズム

『特捜最前線』ならではの特徴、“特捜らしさ”は、その前に15年にわたって放送されていた『特別機動捜査隊』を踏まえ、さらに発展させることによって生まれたと思います。『特別機動捜査隊』の最終回は1977年の3月30日、『特捜最前線』は翌週の4月6日から始まっていますからね。

まず、『特別機動捜査隊』はあくまでも事件が主役、事件そのものを描いていたので、刑事一人ひとりの個性があまりなかった。対する『特捜最前線』は、プロデューサーがおっしゃっていましたが、基本は事件だけれども、人間ドラマや“愛”も描いていきたいと。第1話「愛の十字架」から第13話の「愛・弾丸・哀」まで、すべてのタイトルに“愛”が入っているのもその表れですよね。
そして、刑事一人ひとりに個性を持たせて、丁寧に人間ドラマを描く。そのためのキャスティングも素晴らしいです。西田敏行さんにしても、藤岡弘さんにしても、配役の妙というか、すごい力のある人を使っていますよね。

そんなコンセプトで始まって、いい意味でだんだんそれが崩れてきて、『特捜最前線』ならではの個性が固まっていきました。愛を描きながらも、そこにスタイリッシュさが出てきたんです。その起爆剤となり、さらに牽引役となったのが、長坂秀佳(ルビ:しゅうけい)という脚本家であったと思います。
また、『特別機動捜査隊』は普通の刑事なので、巨悪が出てくると対応できなかった。せっかく突き止めたのに逃しちゃうとか、殺されちゃうとかっていう話も結構ありました。これに対して『特捜最前線』は、捜査する側がエリートの特別部隊ですから、第1話「愛の十字架」でいきなり巨悪を捕まえちゃう。このあたりに、“今までやりたかったけど、できなかったことをやってやろう”という意志を感じますね。

「特命課」なので、管轄、縄張りがないっていうのも凄い。それまでの刑事ドラマと比べると、『特捜最前線』はビョーンと突き抜けた感じがします。『特別機動捜査隊』でやっていたドキュメンタリーチック、リアリズム路線からいきなりポーンと飛び出しちゃった(笑)。「うまくやったな」と思いますね。

他の刑事ドラマにはない、『特捜最前線』ならではの魅力

たとえば『Gメン』には、極めて愛がないんです(笑)。『キイハンター』などもそうですが、やはりスパイものを意識している故か、展開がわりと過酷で、人情深いその回の登場人物がラストで無情にも殺されて、犯人も撃たれて死んで、それをGメンたちがじっと見ている……というシーンで終わったりします。『Gメン』は、そのあたりのクールさが大きな魅力になっていますよね。

『太陽にほえろ!』は、とにかくキャラクターが最優先で、キャラクターが立つのであれば何でもするというスタンス。ラストも、後半の安定期以降、全員が一係の部屋に戻って、明るい会話とボスのストップモーションで終わる、という、8時からの名ドラマならではのエピローグがデフォルトになりました。

『西部警察』は、人情話的な回、サスペンス的な回ももちろんあるのですが、メインになるのはやはり、あの徹底したアクションですよね。私は名探偵が登場するミステリーが好きなので、まずは知能で戦うほうに強く惹かれますが、所轄署が時には装甲車まで持ち出して犯人とバンバン撃ち合う、『西部警察』のあの世界観も大好きです。 特にあの時代は、たくさんの刑事ドラマがありましたが、そのどれにも違ったよさがあって、魅力があって、それを各番組が中途半端にせずしっかり出してくれていたのがよかった気がします。

その中での『特捜最前線』独自の特色といいますと――まずは“作家主義”の徹底でしょうか。「このドラマは脚本ありき」、という強いこだわりがあって、しかも常に試行錯誤や冒険を続けて型には嵌らない。安定した人気を得て一定のパターンができ上がった場合、ある程度はそれを踏襲していけば楽だろうと思うのですが、それを気にもかけず、その回その回にふさわしい見せ方や展開やクライマックスをとことん追求して――パターンを崩したり、あえてリスクを冒してみたり――。時に映画のような、その徹底ぶりが素晴らしいです。主人公たちも、あれだけ濃い面子ですのに、その個性はあくまで「ストーリーの中」で描かれていて、“キャラクターありき”には、ほぼなりませんでした。

一瞬も見逃さない! 必死の集中力で大人の世界を味わい尽くす

『特捜最前線』の面白さが異常だったことに加えて、当時の状況ならではの集中力のたまものかもしれません。母親が帰ってきたらテレビを消さなきゃいけないので、いつまで観ていられるかがまったくわからない。しかも、ビデオがない時代なので、1度きりしか観られないと思っていましたから、もうあり得ないくらいに集中して、必死に観ていたんです。そういう意味では、母親にも感謝しなきゃいけないかもしれません(笑)。
そんな状況でしたけど、中学とか高校で『特捜最前線』を観ていた時は、大人の世界を覗き見するような、ちょっとカッコイイものを観ているような気分になれて、ちょっと気持ちがよかったですね。

聞き手:町田暁雄

後編では、長坂脚本の凄さ、『特捜最前線』全体の幅広さ、そして、劇場版『名探偵コナン』へとつながる“面白さの極意”について語っていただきます。後編はこちらから >>

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大倉崇裕 (おおくら たかひろ)

1968年京都府生まれ。学習院大学法学部卒業。1997年、「三人目の幽霊」で第4回創元推理短編賞佳作、1998年、「ツール&ストール」で第20回小説推理新人賞を受賞し、2001年に『三人目の幽霊』を上梓。以降、ドラマ化された「福家警部補」「白戸修」「警視庁いきもの係」「死神さん」「問題物件」シリーズの他、落語や怪獣、特撮などをモチーフにしたミステリー作品を次々に発表。劇場版「名探偵コナン」『から紅のラブレター』『紺青の拳』『ハロウィンの花嫁』『100万ドルの五稜星』の脚本、テレビ『刑事コロンボ/殺しの序曲』『死の引受人』のノベライズ、「ルパン三世PART6」の脚本・シリーズ構成など、幅広く活動している。

大倉崇裕 (おおくら たかひろ)©ヤマシタチカコ