- まずは巻芯を差し込む作業から。折れないように側面からゆっくり差し込むのだが、さすがにピンセットではなく指先を使う。もう気分は熟練の職人だ。意味もなく目を細めてみたりする。
マニュアルによると、ここは多少難儀するポイントのようだ。「無理に差し込むと折れる可能性があります」と書いてある。恐る恐る差し込んでいるからか、なかなか巻芯が入らない。少し力を入れると折れてしまいそうだ。 - 何度もオシドリネジを調節し、やっとの思いで取り付けを完了。リューズを回し、歯車が噛み合っているかを確かめる。
……ゆっくりと回転を始める歯車! 嬉しいが、あまり回しすぎて負担になってもいけない。泣く泣く動作確認にとどめたが、非常にいい感じだ。うーん、動画を撮っておけばよかった……。 - カンヌキとカンヌキバネの取り付けに突入。しかしこのバネ、ピンセットの先ほどの大きさしかないのだが、これを縮めた状態で取り付けなければいけない。
びょんびょんとしなるバネを、ピンセットの先でぐっと抑え、じわりじわりとセットする。マニュアルに「バネを飛ばさないようにして下さい。」とあるが、実は2回ほど飛ばした(笑)。非常に集中力が必要とされる、かなりの難所だと思う。 - ようやくセットできた! 苦労した分、達成感はひとしおだ。
このバネをセットしたことで、リューズの仕組みが理解できた。よく時針・分針を調節する際にリューズをカチッと引っ張るが、そこに作用するバネだったのだ。
「組匠」は、組立てを進める中で度々発見を与えてくれるし、ピンセットさばきも随分上達したと思う。こんな細かい作業ができる自分がすごい! と自画自賛モードだ。 - 調子に乗っていたら、裏押さえの取り付けの際、隙間にネジを落としてしまった……。慌ててムーブメントをひっくり返して上下に振ると出てきたが、いや焦った。
気を取り直して、アンクルとアンクル受の取り付け。マニュアルに「ここは必ず動画を見ながら進めるように」とあるが、このために会社のタブレットを持ち出してある。準備は万端だ(笑)。動画は「組匠」のサイトで見ることができる。 - 動画を2回ほど通して見た後、一時停止を繰り返しつつ慎重に作業を進める。 それにしても本当に小さなパーツが、繊細かつ複雑に組合わさることで、ひとつの時計という形を成しているのを実感する。写真はアンクルとアンクル受。隣のムーブメントと比較して、その細かさを想像してみてほしい。
- いよいよ本日のクライマックス! “時計の心臓部”、テンプの登場だ。このテンプが時計に命を吹き込む最重要パーツだと、取材時に熱く語っていただいたことを思い出す。
恐る恐るピンセットでつまみ上げてみるが、びよんびよんと落ち着かないパーツだ。動画では簡単にセットできるように見えるが、さて私はどうなるか……。 - ここでも動画を繰り返し再生しながら、その通りに真似て組立てていく。動画は非常にわかりやすく、これを見ることで安心した部分は大きい。組立て終わったら、最初から最後まで通して見てみようと思う。
テンプの取り付けにはコツが必要で、少し手間取ってしまった。マニュアルの「決して無理をしないようにして下さい」の文字が嬉しいやら悲しいやら。ここでサポートや修理を依頼する人が多いのかもしれない。 - 組み終わり、いよいよテンプの動作確認。天輪をピンセットで挟み、反時計回りにひねる。
緊張の一瞬! テンプをゆっくりと放すと、左右に振り子のように振れ始めた。「チッチッチッ」と規則正しい音が響く。
……やった!成功だ! 今までの作業が間違っていないと、太鼓判を押された気分だ。ひとり会議室でほくほくと笑う私は、傍から見ればさぞかし幸せそうだったと思う(笑)。 - 写真ではお見せできないのが残念だが、まるで心臓の鼓動のように規則正しく動いている。ひとつの命を生み出したかのような達成感と安堵が湧き上がってきた。
やはり「買ってよかった!」。これはもう、体験した人にしかわからない幸福だ。このブログを読んでくださっている方には、ぜひともこの感動を味わっていただきたいと心から思う。