幕末や明治の写真はモノクロですが、中にはカラーが混じっている写真もありますよね?あれも彩色写真ですか?
幕末に日本に写真技術が入ってきて、明治にその弟子たちが横浜や東京に写真スタジオを構えました。当時、写真は最先端の技術で一世を風靡したんですね。彩色写真もほぼ同時に始まりました。
当時と今では彩色の方法は違うのでしょうか?
当時、日下部金兵衛(くさかべきんべえ)さんなど彩色写真の大御所が3人いたのですが、こちらがその中の1人の江南信國(えなみのぶくにさん)の彩色写真です。

これはガラス乾板に裏から色を付けているからめちゃめちゃキレイなんですね。 昔の彩色写真は資料的価値があるが、現在の彩色写真は実際に見たわけじゃない、想像でしかないから価値がないとよく言われるのですが、、、じゃあ実際どうかというと、当時のモノクロ写真は明度の出方が色によって違う、そして色は明度と彩度と色相で決まるので、明度が違えば色が違う。
どれだけ正しい絵の具を載せても下の明度が違ってしまえば、違う色になってしまう。
ちゃんと分析すると実際の色とは明らかに違う色が塗られてるんですね。
また、決定的なのが、江南さんのスタジオで「写真に着色する職人」の写真が残っているのですが、、、

実物を見て描いてません。。
それに絵皿の数が数えるほどしかないんですよね。多分この人が赤系、この人が青系など分業もしている。絵の具は混ぜれば混ぜるほど彩度が落ちるので、最初から色んな色の 絵の具を用意しておかないと鮮やかな色は出せないんです。
つまり当時の人も実際に見て色を塗っているわけではなく、おおよそなんですね。

当時、色んな写真館が最先端の技術として写真の彩色をやっていて日本のお土産物として、海外で受けていたんですけど、日本の着色技術がすごいからという人もいますが、要するに東洋趣味ですよね。写真はオリジナルのネガから増やせる、紙焼きができるので、こっちのほうが売れるとかそれっぽいとか、それぞれ違う色を塗っていたんでしょう。

当時の着色写真にはアンティークや芸術作品としての価値があります。しかし、現代の技術で彩色したものと、当時の彩色写真の比較すると現代のほうが精度が高い物が作れるわけで、理想に近づけてみようという試みはなかなか面白いと思います。
最近AIによる彩色写真が話題になっていますが、どう思われますか?
AIによる自動着色は昔の人工着色写真と同じ感じですね。
AIには彩色でいちばん重要な、似て非なるものの判別ができません。
山や海など、パターン認識して当てはめているだけなんですが、人間の脳はカラーで物を見たがっているので、適当に色がついているだけでも実際そうであったかのように認識してしまうんです。
そして意味を理解しないという点では、AIは元々モノクロで描かれているピカソの「ゲルニカにも躊躇なく彩色してしまうんじゃないでしょうか。
ミリタリー系の写真の彩色のお仕事が多いとのことでしたが、何か特徴はありますでしょうか?
戦争の写真には目的があります。いわゆるプロパガンダです。2隻しかない船を10隻以上いるように見せたりとかのコラージュも、世界中でやっていました。
写真を撮るというとシャターを押して撮影することに意識が行きがちですが、現像とプリントまで含めて写真なんですよね。いわゆる暗室での作業です。
そして最終的に紙焼きした物を人は見るので、作品は紙焼きなんです。

暗室で何しているかって言うと、めちゃめちゃ加工しています。
トリミングはもちろん、露光する現像時間や光の当て方を変えることで仕上げが全然違う。切り貼りする事もある。写真を使う側から「このようなイメージで」といった指示もあって、つまりモノクロで一番良くみえるように最適化しているわけです。だからそれをそのまま彩色しても全然ダメで、カラーで自然に見えるように最適化し直さないといけない。

例えば教科書にも載っているパールハーバーの写真、実はこれ米軍によってカラー化された彩色写真なんです。当時カラー写真もあったんですけど、普及はしていない。でもプロパガンダとしてはカラーのほうが伝わるわけです。

2番目が公文書館の公式写真で、元はモノクロなんですね。
これに現代の技術で丁寧に色をつけるとどうなるかやってみたんです。


※米国が発表した当時の彩色写真。炎の部分が描き足され、大きな被害を演出している。


※公文書館に保存されているオリジナルのモノクロ写真


※山下氏が彩色した写真。モノクロ写真から実際の炎を丁寧に読み取り、彩色すると当時の米国の彩色写真とはイメージが変わってくる

比較して見てみると、米軍の写真は炎を増やしているんです。本来見えているのは海面に漏れた重油に引火した部分だけです。煙も重油の真っ黒な煙ではなく、炎が映えるように茶色の煙にしている。また、オリジナルを見ても炎の痕跡がない部分にも炎を入れていたり。彩色写真にはこういう嫌な部分もあるわけです。
写真の使用者、目的によって、いくらでも事実を変えられる。どう表現するかはそれぞれの立場次第なんです。
今回、週刊「栄光の日本海軍パーフェクトファイル」のTV CM用にも彩色写真を 作っていただきましたが、作業はいかがでしたでしょうか?
巡洋艦「三隈」が軍港から出港する時の集合写真なんですけど、軍人さんの数が半端なかったです。
しかもCMでは軍人さんのアップから引きになるということで TVでのアップにも耐えうるクオリティに仕上げる必要がありました。
写真の全面にキズが入っていて、そのキズを消すレタッチも大変だったんです。
また、軍の写真では場所を悟られるといけないので、検閲で山などのシルエットを白く塗りつぶして消しているんですね。モノクロだとその部分が白くなっていても気にならないんですが、カラーだとすごく目立つから書き足さないとダメなんです。
そのために、場所と時間、撮影日時から手がかりを探すんです。三隈が寄港していた長崎の佐世保の港あたりの似たような土地をGoogle earthで探し、「この山をこっち側から見ているな~」など、何とかして事実に近づけるよう調査を行います。

そんな大変な作業をお願いしてしまい、申し訳ございません! 時間はどのくらい掛かりましたか?
傷取りのレタッチに5時間、背景を調べて書き足すのに5時間、彩色には20時間掛かりました。他の作業もあったため、丸2日間徹夜になっしまいました。
特に色に関しては、自分の中で理想があって、印刷用の色で全部作っています。 パソコンのモニターってそれぞれ色が違うのですが、印刷物は同じ。読者は同じイメージを共有できる。これはすごいアドバンテージで、この仕組みを利用しない手は無い。
そのため、カラーキャリブレーション対応で印刷用に色校正できるモニターを使用しています。
やはり作品にこだわるためには、基準を作っておいたほうがいいですね。
彩色写真への反応はどのようなものがありますか?
実際にその軍艦に乗られていた方やご遺族からお言葉をいただくことがよくあります。
彩色写真を始めたころは、戦争の当事者の方々も少なくなりこれは急がなければと思ったんですね。
テーマを軍艦に絞って有名所はほとんど作りました。でもまだ300隻くらい残っている。
そうしている間に、当事者の方々からだった連絡が、遺族の方々からに変わってきました。
「ああ、間に合わなかったか~。。。」という感想はあります。

後の人はノスタルジーとか歴史的価値とか言うわけですよ。
モノクロ写真というと、何だかノスタルジックな印象ですが、当事者の方々にリアルな体験ですよね。でも当時は技術的な限界で写真がモノクロだった。思い出の記録がモノクロしかないんです。戦争経験者が亡くなってしまう前に、少しでも多くの "思い出"に色を付けていきたいと考えています。

彩色写真ができるまでへ

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