「はやぶさ2」プロジェクトの情熱に触れる
関係者特別インタビュー!!

Vol.6

「はやぶさ2」プロジェクト
運用チーム スーパーバイザー
早川 雅彦 氏
矢野 創 氏
月崎 竜童 氏

あらゆるケースを想定した訓練を行いながら
日々の運用で「はやぶさ2」の順調な旅路を支える

リュウグウ到着を控え、往路の旅はいよいよ佳境に入る。「はやぶさ2」運用のスーパーバイザーを務めるお三方に、管制室の日々のようすを伺った。

※本インタビューは2018年4月26日に行いました

――スーパーバイザーとはどんな仕事なのでしょうか?

矢野氏(以下、矢野) スーパーバイザーとは、一言で言うと運用の現場監督です。毎日、管制室では、探査機が予定通りの姿勢を維持できているか、イオンエンジンが正常に噴いて目標の加速に達しているかなど、惑星間空間を飛行している「はやぶさ2」の健康状態や実績を受信データから確認しながら、あらかじめ決められた手順書をもとにスーパーバイザーが「今日はこういう運用をする」と指示を出し、コマンダーがコマンドを探査機へ送るという運用が行われています。その流れ全体を監督しながら、問題があれば速やかに対処し、7年間にわたる運用計画の日々のノルマを着実に遂行していくのがスーパーバイザーの役割の1つです。私は「はやぶさ」で往復路の合計7年間、「はやぶさ2」でも打ち上げ以来今日まで、スーパーバイザーを担当してきています。また管制室には多くの人は入れず、往路運用であればJAXAからスーパーバイザー1名、イオンエンジン担当1名、姿勢制御担当1名、システム担当1名、メーカーからはコマンダー1名程度の少人数です。そこで運用に参加できなかった多数の関係者に向けて、「今日こういう運用を行い、問題があった・なかった」と報告し、探査機の様子をプロジェクトチーム全体に速やかに共有するのも、スーパーバイザーのもう一つの役割です。

――「はやぶさ」との違いや苦労はありますか?

早川氏(以下、早川) 「はやぶさ」では、私は帰路だけスーパーバイザーを務め、「はやぶさ2」は往路から関わっています。全てが初めて尽くしで、日々の運用自体が工学実験だった「はやぶさ」との大きな違いは、「小惑星リュウグウに着いてから何をするか」を到着前に緻密に計画しながら運用しているところです。そのために往路運用と並行して、リュウグウ到着後に予定されている多彩な運用に関する模擬訓練(RIO)も実施中であり、RIO訓練中にもし「はやぶさ2」の実運用で何か起きたら、訓練と並行で実機のトラブルシューティングをしなければなりません。また、「はやぶさ」のときはスーパーバイザーが運用に集中できるようにアシスタント役の学生の運用当番がついていましたが、「はやぶさ2」運用では省かれています(※1)。そのため、基本的にやっている作業は「はやぶさ」の運用と同じながら、運用実績を記録したり受信データのログをファイルに綴じたり、海外地上局との連絡回線を確保したり、といった細かな実務作業も、スーパーバイザーの両肩に乗ってきたという印象がありますね。

月崎氏(以下、月崎) 私は「はやぶさ」のときはスーパーバイザーを経験しておらず、学生当番とイオンエンジンを担当していました。「はやぶさ」運用では、小惑星到着後にやるべき運用の事前訓練に多くの時間を割けなかったと聞いています。「はやぶさ2」は「はやぶさ」の経験をふまえて作られているので、非常に順調です。その分、小惑星到着後の準備に時間が割けるようになっています。私はイオンエンジン担当でもあるので、津田PMから「ここまで安心して到着後の準備ができるのは、イオンエンジンが順調に動いているおかげ」と言われ、とてもうれしかったですね。

矢野 地球の周りを回る人工衛星の運用と「はやぶさ2」のような探査機の運用の一番の違いは、運用時間の長さです。宇宙望遠鏡や商業衛星などの人工衛星は、地球低軌道ではおよそ90分で地球を一周します。日本の場合、長野県の臼田局や鹿児島県の内之浦局などの上空を通過している短時間だけ人工衛星は地上の運用者と通信ができるので、事前にコマンドを作っておいて一度に送り、90分後の次のパスでそのコマンドが正しく実行されたか確認するという断続的な運用をします。一方、「はやぶさ2」のような「人工惑星」とも呼ばれる探査機は、地球と同じように太陽の周りを回っていますから、見かけ上は火星や木星などの惑星同様に背景の恒星の間を長い時間かけて、ゆっくり動いていきます。そのため1日に約7~8時間、臼田局上空を東の地平から昇って西の山際へ沈む通過するまで、連続で運用します。この点は「はやぶさ」も「はやぶさ2」もまったく変わりません。違いがあるとすれば「はやぶさ」はイオンエンジンを含め、深宇宙の往復飛行や小惑星探査は初めて尽くしだったので、打ち上げから地球帰還まで、日々検証とトラブルシュートの連続でしたが、その経験と教訓を踏まえて作られた「はやぶさ2」は非常に洗練されていて、スーパーバイザーとして運用しやすくなっているということです。

――研究センター棟3階の管制室が刷新されましたが、これまでの管制室との違いはどんなところでしょうか?

矢野 まず、かっこいいでしょう?(笑)

月崎 特に照明とか。

早川 NASAやESA(※2)と比べても遜色ない。

矢野 これまでの管制室は直線的なレイアウトで、背中越しにモニター上のデータを確認することもありました。新管制室はW型の配置で、運用担当者の間のコミュニケーションがよりとりやすくなっています。「はやぶさ2」の運用は、リュウグウへの接近・タッチダウンに向けて新管制室に移行する予定です。新管制室はほかの宇宙研のすべてのプロジェクトが共用しているので、「はやぶさ2」以前のすべてのプロジェクトに比べてより効果的になったと言えるでしょう。

――写真を見ると、大きなスクリーンが3つ見えますよね。

矢野 大きなスクリーンを使う目的は、情報共有です。新管制室では、管制卓端末の画面を従来より多様にスクリーンに映し出せるようになりました。たとえば以前の管制室ではコマンダー卓の画面をスクリーンに映し出すことはありませんでしたが、運用の現況を把握するにはもっとも重要な画面なので常に確認したいという要望が上がり、映すようになりました。新管制室は、卓の配置なども含め、運用開始後も現場の声を生かして、どんどん改善されていくと思います。


訓練中の管制室のようす。スクリーンの左の画面がコマンダー卓。

――管制室の席順は決まっているのですか?

早川  それぞれ役割によって決まっています。スーパーバイザーはここ、コマンダーはここ、PMはここ、と決まっていて、当日のスーパーバイザーやコマンダーがその席に座るということですね。

――室内で飲食はできますか?

月崎 管制室は原則飲食禁止です。ただ最近、ペットボトルなど蓋がついている飲みものは持ち込めるようになりました。運用中は休憩時間も取れないくらい忙しいこともあるので、食事ができないのはつらいですね。

――では、2018年「はやぶさ2」プロジェクトの見どころを教えてください。

矢野 リュウグウという小惑星の姿が光の点ではなく、初めて画像として見えたときではないでしょうか。私は、今でも小惑星イトカワの画像を初めて見たときの興奮が忘れられません。それと同じくらいの楽しさ、サプライズではないかと思います。

早川 リュウグウもイトカワも、それまで誰も見たことがないものですからね。

矢野 「はやぶさ」と「はやぶさ2」のサンプラー開発担当としては、小惑星表面へタッチダウンの際、弾丸を撃ってサンプルを採取するのもおすすめです。「はやぶさ」では残念ながら弾丸を撃つことはできなかったので、私は2005年以来、そのリベンジを13年間待っていました。また「はやぶさ」では着陸探査ロボット「ミネルバ」をイトカワに着陸させられませんでしたが、今回はドイツのMASCOTをはじめ複数の探査ロボットを着陸させる予定なので、それらが映し出す小惑星の表面にも注目しています。

早川 「はやぶさ2」では、衝突体をぶつけて人工的なクレーターを作りますが、これは初めての経験、一発勝負です。今回はクレーターができる瞬間の写真を撮ろうとしているので、そこも注目ですね。

月崎 「はやぶさ2」は、約1年半リュウグウに滞在し、前半部分に大きなイベントが予定されています。そのとき訓練してきた成果が生かされるのかどうか、楽しみにしています。個人的には「はやぶさ2」がリュウグウに到着すれば、自身の専門であるイオンエンジンの運用が片道分終わるので、その段階でひとまず祝杯を上げたいですね。

――最後に、「はやぶさ2」を応援している人たちにメッセージをお願いします。

早川  まだまだこれから何が起きるのかわかりません。ずっと注目して、応援してください。

月崎  「このチームは、日本で探査を出来る最高の人材が集まって、思いつく限りの想定をしてやれるだけの訓練を積んできた。このチーム以外に世界でこの仕事ができる人たちは他にいない」。私は佐伯孝尚プロジェクトエンジニアのこの言葉に勇気づけられ、自信を持ちました。しかし、いつ足元をすくわれるかわからないのが宇宙探査です。謙虚に一生懸命精進していくつもりですので、どうぞ応援よろしくお願いいたします。

矢野  私からは『小惑星探査機はやぶさ2をつくる』の模型を作る人たちへのメッセージを。皆さんはこの模型を作る過程で、小惑星探査機がなぜこんな形と大きさと機能を持っているのか、わかっていくと思います。我々もイオンエンジンやサンプラーなど担当したサブシステムを集めて最終的に一つの探査機に組み上がったとき、初めて気づいたり、改めて実感したことがたくさんありました。我々が「はやぶさ2」を作ったときの驚きや発見を、この模型でぜひ追体験していただきたいと思います。

用語解説
※1 学生当番は2018年6月1日から復活予定。
※2 ESA:欧州宇宙機関(=European Space Agency)のこと。
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