「はやぶさ2」プロジェクトの情熱に触れる
関係者特別インタビュー!!

Vol.4

「はやぶさ」プロジェクト
プロジェクトマネージャ
川口 淳一郎 氏

「はやぶさ」が示した日本が誇る最先端の
サンプルリターン技術で世界の最前線に立つ!

「はやぶさ」プロジェクトを、世界もうらやむほどの大成功に導いたチームの先導者に、「はやぶさ2」の意義と宇宙開発の未来の展望を直撃した。

―― そもそも「はやぶさ」で小惑星サンプルリターンを選んだのは、どのような理由があるのでしょうか?

私たちがオリジナルでできる宇宙開発をしよう、となったときに出てきたアイデアが小惑星サンプルリターンで、「はやぶさ」で選んだというわけではありません。
私が大学院に入ったのは1970 年代の後半。アメリカ初の宇宙ステーション計画である「スカイラブ計画」が始まり、パイオニアやボイジャーといった惑星探査機が木星や土星に打ち上げられていました。1981 年にはスペースシャトルも打ち上げられています。
そのころ日本では、年に1回くらい小さな科学衛星を打ち上げていた程度で、当時のアメリカの宇宙開発とはとてつもない格差があった時代でした。
そんななか、私たちの研究室では、1980 年代初頭に、「ハレー彗星探査計画」として、ハレー彗星にM-3SⅡロケットで探査機を打上げる計画を考え、1985 年に「さきがけ」と「すいせい」(※ 1 )という小さな2 つの探査機を打ち上げました。このM-3SⅡロケットで、はじめて惑星探査機が打ち上げられるようになったのです。
また、ハレー彗星探査機の打ち上げと前後しますが、1985年の6月に、はじめて小惑星サンプルリターン研究会が開かれました。サンプルリターンは、そこに行くだけではなく、往復の飛行をしてこそ成せる。持ち帰る物質が微量でも、地上で徹底的な分析ができる。では、どんな天体をめざすべきかという議論をしました。
探査のターゲットは大きいほうがいいと考えてしまいそうなものですが、惑星への離着陸は至難の業です。そして、大きな天体の表面には、軽い物質しかなく、太陽系の謎が解明されるわけではない。めざすべきは大きな天体ではなく小さい天体だ……となりました。しかし、小惑星への到着すら難しいと考えられていた時代ですから、まず片道飛行での小惑星ランデブーを考えました。
ところが1990 年代はじめ、NASAに「NEARシューメーカー」で、小惑星ランデブーをプロジェクト化されやすやすと実行されてしまいました。これは非常にショックでした。
そのとき開き直り、小惑星サンプルリターン計画を提案しようと決めました。1985 年の研究会のときには、燃料が多く必要で、その分積める観測機器が少なくなる普通のロケットエンジンを想定していましたが、このころには燃料も少なく小さなイオンエンジンも準備できていました。アメリカの探査機でもイオンエンジンは主推進機関としては、使われたことがなかったですし、小惑星を探査し、カプセルを再突入させて帰還させれば……と計画の骨格ができ、1995 年に「はやぶさ」プロジェクトを提案。多くの賛同を得ることができ、1996 年にプロジェクトが始まりました。

―― では「はやぶさ」プロジェクトには、NASAとの格差をひっくり返したいという思いがあったのでしょうか? また、これからの小惑星探査・深宇宙探査をどのようにお考えですか?

勝ち負けではなく、私たちがめざすべきは「だれもやっていない方法で、だれもやっていないことをやる」ことだと思います。今は「はやぶさ」のサンプルリターンの形式を、得意技を伸ばすことをめざしています。
現在、まったく新しい宇宙機として取り組んでいるのはソーラー電力セイル(※ 2 )です。これは、太陽光(圧)を推進力に使うだけでなく、太陽エネルギーで電力を得ます。これを使ったサンプルリターンを考えています。
目標として考えているのは、木星トロヤ群(※ 3 )の小惑星です。木星を周回する氷衛星(エウロパ、ガニメデ、カリスト)には、表面の氷の下には海があって生命が存在すると言われていますが、なかなか生命の手がかりは得られません。では、その衛星を作った材料であるトロヤ群であれば、行きやすいし生命の痕跡が見つかるのではないか? というのがここを狙う理由です。
また、100~200 年先のことだと思いますが、人類はレアメタルなどのいろいろな資源を、地球外に求めるようになるでしょう。小惑星は、重い物質が大きな惑星のように内部に沈んでおらず表面にあり、たとえば小惑星エロス(※ 4 )に含まれる白金は、人類が有史以来に採掘した白金の量よりもはるかに多いと言われています。隕石などを見てみても資源のかたまりです。即実用化は難しいですが、人類生存の持続性を高めるためにも、資源探査という考え方は必要だと思っています。

―― 最後に、「はやぶさ2 」プロジェクトの見どころを教えてください。

「はやぶさ」では、小惑星の地形を参照しながら自分がどこにいるかを調べる「地形航法」という誘導航法技術、着陸技術を構築しました。
探査機の着陸で何が難しいかというと、横方向のスピードをなくすことです。もしこの横方向のスピードをなくせないまま斜めに降りてしまうと、地表に着いたときに機体がひっくり返ってしまいます。
そもそも、この横方向のスピードをどうやって計測するかというのが問題で、もちろん高度計では測定できません。「はやぶさ」ではターゲットマーカーを小惑星表面に投下し、それが止まって見える=横方向のスピードをなくした状態で降下・着陸できることを実証しました。
さらに「はやぶさ2」では、直径2~3mくらいの人工クレーターを作り、そこに接近してサンプルを採取することになります。それだけの高度な航法性能・誘導性能を発揮するようすに、ぜひ注目してほしいですね。
NASAのOSIRIS RExでも、ここまでの高度な技術は持っていないはずです。OSIRIS RExは、「はやぶさ」から13 年、「はやぶさ2 」から2 年遅れで打ち上げられましたが、こうやって他国の先を走っている技術はほかにありません。先端技術の最前線に立つ「はやぶさ」「はやぶさ2 」を見て、若い人たちの刺激になればと思います。

用語解説
※ 1
「さきがけ」と「すいせい」:1986 年に飛来したハレー彗星観測のための惑星探査機で、「さきがけ」は1985 年1月に、「すいせい」は8 月にそれぞれ打ち上げられた。日本初の地球脱出ミッションだった。なお、ハレー彗星観測は国際協力プロジェクトで、旧ソ連から「ベガ1 号」「ベガ2号」、ヨーロッパから「ジオット」が打ち上げられ、通称「ハレー艦隊」と呼ばれた。アメリカもスペースシャトルから観測予定だったが、チャレンジャー号爆発事故( 1986 年1 月)で運航中止となったため、1985 年にジャコビニ・ジンナー彗星に向かった「ICE 」を転用し参加した。
※ 2
ソーラー電力セイル:「太陽帆」とも言われ、超薄膜の帆を広げ太陽光圧を受けて進む宇宙船で、同時に帆の一部にある薄膜の太陽電池で電力発電を行う。この電力でイオンエンジンを駆動し、ハイブリッド推進を実現する。2010 年に打ち上げられた小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」はこの技術の試験機。
※ 3
木星トロヤ群:木星とほとんど同じ軌道上を同じ周期で運行している小惑星の一群のこと。
※ 4
小惑星エロス:1996 年に打ち上げられた小惑星探査機「NEAR シューメーカー」が、2000 年に探査した小惑星。
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