「はやぶさ2」プロジェクトの情熱に触れる
関係者特別インタビュー!!

Vol.2

「はやぶさ2」前プロジェクトマネージャ
宇宙科学研究所長
國中 均 氏

「はやぶさ」が積み重ねてきた偉業を背負い
「はやぶさ2」が宇宙大航海時代を切り開く

開発から関わった「はやぶさ」、そして前PMとしての「はやぶさ2」へ
の思いと、来たる「宇宙大航海時代」についてお話を伺った。

―― 2018 年「はやぶさ2 」プロジェクトの見どころは?

これまでのミッションは、行き先の事前情報がある程度あったうえで、よりくわしく調べることをめざします。ところが「はやぶさ2 」は、「探査(=知らないところへ行って探す)」であり、挑戦的なプロジェクトです。また「はやぶさ」と比較しても、「はやぶさ2 」は小惑星の近傍に長く滞在します(※ 1 )。
リュウグウでの1 年半の滞在期間中に、何回か着陸やロボットの展開などを予定していますが、私は正直なところ計画どおりにはいかないだろうと思っています。ですから、2020 年の地球への帰還までという長い目で、よし悪しの判断をしていただきたいですね。
14~16 世紀に、コロンブスやマゼラン、バスコ・ダ・ガマらが活躍した大航海時代がありましたが、大変に危険な旅でした。今「はやぶさ2 」で実現させようとしている事柄は、それに近いものがあります。これまでの宇宙ミッションともまったく異なり、太陽系の探検の時代に入ってきているのです。そこに、日本が自国の技術で世界を先導して乗り出しているということをみなさんにぜひ知っていただきたいです。

―― 國中さんは「はやぶさ」プロジェクトにも参加されていましたが、そのきっかけは?

1980~90年代、電気推進(イオンエンジン)という技術を、世界がこぞって研究開発していました。当時、この技術の使用が想定されていた領域は静止衛星でした。燃費のいいイオンエンジンを使い、静止衛星の寿命を延ばすことをめざし、研究開発されていました。
当時、私はISAS(※ 2 )に所属していましたが、宇宙科学を研究する機関ですから、静止衛星は取り扱っておらず、自分が研究しているイオンエンジンの出番がないため、NASDAをうらやましく思っていました。
その後、火星探査機「のぞみ」(※ 3 )にイオンエンジンの応用を提案しましたが、残念ながら採用されず……。イオンエンジンを用いるならば、きっと彗星や小惑星といった小天体探査であろうと目星をつけていました。
それとは別に、川口先生(※ 4)が小惑星への着陸を考えていらっしゃったようです。ところが、着陸は「NEARシューメーカー」(※ 5 )に先を越されてしまったので、一足飛びにサンプルリターンをめざすことになりました。
サンプルリターンを達成するためには、化学推進では燃費が悪くて実現不可能。燃費のよい推進装置が必要であったため、イオンエンジンが採用されたのです。

―― 最近でこそイオンエンジンは注目されていますが、不遇の時代もあったのですね?

宇宙開発では実績が問われます。実績にこだわり過ぎると、新しいことはできません。着実な実現のための保守的設計と、リスクをともなう新技術の使用は相反しますが、「はやぶさ」は世界との競争関係のなかで必要に迫られてイオンエンジンというイノベーションを採用したのです。
科学分野では予算に限りがあり、大きな探査機は作れません。身軽であっても、より遠くの宇宙に到達し、さらにそこから取って返すには、探査機に搭載できる高性能推進機関が必要です。それを可能にするのがイオンエンジンです。ですから、「はやぶさ」「はやぶさ2 」でのイオンエンジン搭載は、日本に最適なベストソリューションだったと考えています。
また、イオンエンジンは科学探査だけでなく、商用衛星・運用衛星からも注目されています。現在、世界の技術開発動向は静止衛星に戻っていて、静止衛星の全電化が進められています。これまでは、ロケットでGTO(※ 6 )まで打ち上げて、次に化学推進を使って静止軌道衛星に入っていました。
しかし現在は、時間はかかりますがイオンエンジンで軌道を上昇させ、静止軌道に乗せるというのが世界での趨勢になっており、JAXAも技術開発を進めています。

――「はやぶさ2 」開発への思いを伺えますか?

プロジェクトの立ち上げ当時は震災や政権の意向もあって、安定しない時期でした。予算事情がよろしくなく、2014年末の打ち上げはとても無理というのが大方の見込みでした。2012 年12月に「開発が順調に進んでいる」とマスコミにアピールしたことからみなさまの好感と信頼をいただき、予算事情が改善し、どうにか2014 年に間に合わせることができました。
「はやぶさ2 」の開発では、多くの技術的困難に遭遇しましたが、一緒に働いている企業のエンジニアの熱意と努力で問題解決し、JAXA の総合力でこれらを突破しました。また、「はやぶさ」の成果の持つ意味を、世界中の人、とくに宇宙エンジニアと共有できていたことや、あこがれを持つ若い人たちが「はやぶさ2 」プロジェクトに参画してくれたことが、成功の要因ですね。そういう意味で、「はやぶさ2 」のアドバンテージを最大級に生かせたのではないかと感じています。

―― 最後に「はやぶさ2 」を応援するみなさんにメッセージをお願いします。

現在は、新しい領域に進出し、まずは宇宙のどこに何があるのかを調べる時代、「宇宙大航海時代(※ 7 )」です。その次には、目的の場所に出かけて行ってそこの物質や資源・情報を取り出す時代がやってくるはずです。
「はやぶさ2 」は、そんな宇宙大航海時代に先駆けた探査機なのです。そこには、私たちも予想できない多くの発見があるはずなので、宇宙探査の難しさをご理解いただきつつ、楽しみにしていてください。

用語解説
※ 1
小惑星探査機「はやぶさ」:「はやぶさ」は、イオンエンジン動力航行、光学航法、小惑星着陸、サンプル採取、帰還カプセルといった新技術を連ねて、小惑星サンプルリターンのための技術実証を目的とした工学実験機だった。
※ 2
ISAS: 宇宙科学研究所( = Institute of Space and Astronautical Science)のこと。当時はNASDA(宇宙開発事業団)とISAS が宇宙開発を行っていたが、2003年に統合されてJAXA になった。NASDA では静止衛星の開発が盛んにおこなわれていた。
※ 3
火星探査機「のぞみ」(PLANET-B):1998 年7 月に打ち上げられた日本初の火星探査機。
※ 4
川口先生:「はやぶさ」プロジェクトのPM・川口淳一郎教授。
※ 5
「NEARシューメーカー」:1996 年に打ち上げられたNASAの小惑星探査機「NEAR(ニア―)シューメーカー」のこと。
※ 6
GTO: 静止トランスファ軌道(=Geostationary Transfer Orbit)のこと。人工衛星を静止軌道にのせる際、一時的に投入される軌道で、ロケットを打ち上げて一気に軌道高度が高い静止軌道にのせることは力学的に困難なため、近地点高度250キロ程度、遠地点高度を赤道上空約3.6 万キロメートルという細長い楕円軌道に投入させる。この後、遠地点付近で推力を与え静止軌道に乗り換える。
※ 7
宇宙大航海時代:14~16 世紀に欧州人が地球全域に進出した大航海時代になぞらえて、人類が太陽系宇宙に活動域を広げるムーブメントのこと。日本では「はやぶさ2 」以降、水星探査計画「BepiColombo(ベピ・コロンボ)」(ESAと共同)、月探査計画「SLIM」、深宇宙探査技術実証機「DESTINY+」の計画、火星の衛星フォボスのサンプルリターン計画「MMX(Martian Moons eXploration )」、木星の衛星ガニメデの探査計画「JUICE( Jupiter Icy moons Explorer)」( ESAと共同)などさまざまな計画が進行中(2018 年2 月現在)。
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