今に伝わるアナログ黄金時代の技 生島 昇(ディスクユニオン JazzTOKYO店長)

デジタル・メディアにCDしか無かった頃ならいざ知らず、マスターに近いスペックの高品位な音源が誰でも入手できる時代なのに、アナログ・レコードは色褪せるどころか近年ますます人々を魅了しているという。データを収める器として見てしまえば、レコードは小さく頼りない。広大なテーブルに好きなだけ料理を並べることができる時代に、なぜこんな黒くて小さな重箱に無理やり詰め込まなくてはならないのか?ところが、この小さな重箱で音をつついた方が美味しい、と言う人が減らないのである。その声はますます大きくなり、この黒くて丸いビニルに何か魔法があるのだと囁かれ始める。実はそうでもなく、これしか無かった時代に英知を結集して磨かれた「音楽を収めるテクニック」に秘密があった。限られたサイズのお皿に、音楽のエッセンスを巧みに盛り付ける腕前を切磋琢磨していた時代があり、その涙ぐましい創意工夫と芸術的演出が、レコードの音溝へ知恵の輪のように畳み込まれているのだ。

この時代のジャズをレコードで聴くことは、アナログ黄金時代に熟した果実を美味しくいただく秘伝の作法のようなもの。食べやすいからと大皿に移してしまうと、風情も風味も消えてしまうのです。

PROFILE

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70年代をオーディオ少年で過ごし、田園コロシアムのライブ・アンダー・ザ・スカイがジャズ初体験。当時からアナログ・レコードばかり聴き続け、現在に至る。衛星デジタルラジオ「MUSICBIRD」、音元出版「季刊analog」、NEKOMOOK「ステレオ時代」等に連載中。